「鏡子の家」三島由紀夫★甘美なデカダンスに酔う

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学生の頃に、たまには日本の文学でも読むかなと思って、
自宅の母の本棚で見つけたのがこの三島由紀夫の「鏡子の家」
500ページ以上ありましたが、数日間で一気に読んでしまいました。

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もう、日に焼けて、汚れて、シミが付き・・・愛おしい本に仕上がってます。

そう、今の本は文字が大きいので、660ページだそうです。
母の時代、櫻田が小さかった頃は文字が小さかったですよね。新聞も本も。

何がよかったって、19歳の大学生にはただただカッコよく、
美しく、クールで、洒脱で、あぁ、カッコ良かったのです(笑)
朝鮮戦後の不思議な時代感、教科書の中の歴史でもなく、今でもなく、新鮮で。
なんだか小難しいことに憧れる10代最後の、あの時の自分に会える本です。

退廃的で、享楽的、そして不道徳な、バツイチ鏡子のサロンに集う若者たち。
まあなんと甘やかで魅力的な響きなんでしょう!
櫻田の知らない世界が、そこに暑苦しくもったいつけて展開され、
耽美な三島由紀夫ワールドへ引き込まれました。

鏡子の家に集まる、男性4人の人生絵巻なのですが、
神秘宗教、右翼、格闘技、情死・・・てんこ盛りで、
三島由紀夫自身が持つ、ストイシズム、ナルシズムの見本市状態。

清一郎:貿易会社のエリート社員だが、世界の破滅を信じる
俊吉:ボクサーでチャンピオンになるも致命的なケガをして右翼へ
夏雄:神秘宗教にハマり死の境まで行くが生還する童貞の画家
収:売れないナルシスト美俳優、醜い高利貸しの女と情死する

人生上がったり下がったり命を落としたりするその4人の人生は、
ほとんど交わることなく平行線上に進み、
さらに、鏡子も彼らに深く関わらない。
他人の生を「鏡」のように映し出すだけ・・

孤独な時代に生きる方向性を見失った若者たち・・とでも表現できるでしょうか。

■ たいへん甘美な響きを放つ言葉達

登場人物が放つダイアログ一つ一つが面白い。それがこの本の魅力。
自己陶酔するかのように、客観的に、悲観的に、自虐的に。
「ひねくれ箴言集」とでも。

藤 子は恋愛を心理的なものと見做していた。心理的なものは黴のようにどこにでも生えるならいで、許婚同士のあいだに生えたってふしぎはなかった。彼女はとき どき許婚の顔をのぞき、この野心家の青年の心が黴でいっぱいのところを想像した。つまり、清一郎の目に不安を読みたかったのだ。

自分は違う、分かってるって思いたい。その場を支配したい、上に立ちたい、見栄っ張りで臆病で。

愛し合っていないということは何と幸福だろう。何て家庭的な温かみのある事態だろう。

逆説的だけれど、愛の持つ危うさ、欺瞞を表現し。

通例、愛されない人間が、自ら進んで、ますます愛されない人間になろうとするのには、至当の理由がある。それは自分が愛されない根本原因から、できるだけ遠くまで逃げようとするのである。

ぐさーーーーーーっっ、えぇ、櫻田のことですけど何か。

再び真面目な時代が来る。大真面目の、優等生たちの、点取り虫たちの陰惨な時代。再び世界に対する全幅的な同意。人間だの、愛だの、希望だの、理想だの、・・・これらのがらくたな諸々の価値の復活。徹底的な改宗。

鏡子と清一郎が最も嫌うものの羅列。
そして時代は移り変わり、大真面目な時代に飲み込まれて行く・・・

高校生まで真面目な優等生で点取り虫だったこずえちゃんは、
背筋がぞっとするような興奮を覚えたのでした。

いやらしい、ねっとりとした美しい倦怠が、己惚れが、美しく展開されます。恍惚。

■ 自分の感性に何かと引っかかって来る本

三島由紀夫の作品は何冊か読んでいますが、
おぉ、文学的だわっ!的にずしっと来るもの、金閣寺とか、と、
流行作家ですわな、的にさらさらと読めて愉しいものがありますが、
これは後者かなと思います。

しかし、人生に影響を与えた本トップ5に入る本です。
タイミングという意味もあるかもしれません。
19歳の青臭さがこの作品をバイブルたらしめたのだと。

4人は知り合いではあるけれど、あまり深く関わったり影響し合ったりしない。
そんな、平行線状に進む物語の形式を「メリーゴーラウンド形式」と呼ぶらしい。

で、確か、辻仁成のワイルドフラワーという本を読んでいて、
この鏡子の家と同じ形式だとか、本人が言ったか、誰かが言ったか・・・書いてあったかして、
あぁ、好きなものが繋がったニヤリ的、愉快な驚きを頂きました。

辻さんのも好きですが、少し描写が重かったような記憶が。
もっともっと、軽く、軽妙に、洒脱に、しかし深く陰を落としたような、
鏡子の家は素晴らし過ぎる。

また、ミランクンデラにハマっていた時期でもあり、
「死の決して繰り返されぬ性質」という表現が、
存在の耐えられない軽さ冒頭と無理やりシンクロされ、
これまた好きなものが繋がったニヤリ、でした。

学生時代の櫻田は、よっぽど青年的な苦悩に没頭していたのだと思います、
甘やかに、しかし大真面目に。

そう、こずえさん、今も昔もナルシスト!

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