「デッドエンドの思い出」よしもとばなな★心のデトックス

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悲しくて、虚しくて、苦しくて、どうしようもなくて、
そんなときに読み返す本がこの本です。

透明な涙がただ流れて、心のデトックスになります。
とっても澄んだ空気を纏った、 出会いと別れと癒しの物語が5つ入ってます。

かなり感情的に、青臭く、自己陶酔気味にレポして参りたいと存じます。

よしもとばななの本は、学生時代に「キッチン」や「白河夜船」
を読んだ記憶があるけれど、もう内容等は忘れていました。
で、30歳くらいの時に同僚にすすめられて久々に手に取った本がこちら。

とても平易な言葉で、いつも日常普通に使う言葉で、
穏やかに淡々と出会いと別れが描かれる、ラブストーリーです。
その淡々、の中にふんわりとした不思議なあたたかさがあふれています。

見落とされがちな「たいせつなこと」がたくさん描かれています。
それは偉そうな心理分析でもなく、人生論でもなく、
ほんとうに、私の心の中にあるけれど、
普段気づかなくて、意識していない、たいせつなことが。

ああいう意味のない時間・・・・えんえんとしゃべったり黙ったりしていていられるということが、セックスしたり大喧嘩して熱く仲直りすることよりもずっと貴重だということ・・・
– 幽霊の家-

退屈で、永遠で・・・
– あったかくなんかない-

小説の中って、やっぱりフィクションだから、
とんでもなく「普通じゃない不幸を背負った人」が出て来るし、
この小説もそういう人が沢山出て来る。
でも「至って平凡に恵まれた普通の人」も出てきて、
両者が平等に扱われている感があるのが好き。

「普通な生き方」って、
なんとなくネガティブに語られたりしてしまうけれど、
しあわせはそんな普通な人の普通の日々にこそあると。

いい環境にいることを恥じることはないよ
– デットエンドの思い出-

作り込まれた世界観のある重厚な物語も好きだけれど、
ふんわりとかげろうのように心に浮かんで来る空気感のある物語も好き。
お化けが出ても普通に挨拶してしまいそうな雰囲気。
カポーティの短編のような。

あ、いやむしろ、少ない言葉や登場人物や背景描写にスキがあるから、
読者ひとりひとりの思いが引き出され、
それぞれに深い世界観を作っているのかな。
それってきっと、本として素晴らしいと思う。

本を読んでいる時の頭に浮かぶ情景って、
みんなでシェアできたら面白いだろうなぁ。

櫻田は結構鮮明に主人公の顔なんかも浮かんできて、
さながらテレビドラマみたいに色鮮やかです。
なので、小説がドラマやアニメ、映画になっても観ないことが多いです。

神と呼ぶにはあまりにもちっぽけな力しか持たないまなざしが、いつでもともちゃんを見ていた。熱い情も涙も応援もなかったが、ただ透明に・・・
– ともちゃんのしあわせ-

そして不思議なことに、時間はその時、おかしな流れかたをしていた。戻っていくわけでも、止まったわけでもなかった。
ただふんわりと広がってどんどん拡張していったのだ。光の中で、天まで届くかのような広がりで、ふたりを包んだままで時間が永遠になった。

– 幽霊の家-

この世にはあったかい不思議がたくさんあるんだよね。

原因があって結果がある、ではなくて、
全てのことが論理的に説明できることはなくて、
なんだかよく分からないことが起きて、流されて、
理由もなく選ばれたり、理由も無く選ばれなかったり。
原因と結果の法則はあるとは思うけれど、
どれがどれを招いたかなんて、明確でないことの方が多い。

そして、良く分からないセーフティーネットみたいなものが、
その人の心にも、その人の周りにも張り巡らされていて、
意識しないところで、心や身体がそれをキャッチして、
どん底に落ちていく自分をふんわり包んでくれる。

タイトルにもなった「デットエンドの思い出」を読んでいると、
そんな、不思議であたたかいこと、を思い出すのか、感じるのか、
透明な涙が、ふんわり浮かんでは流れて行きます。

すっごい悲劇とか、可愛そうとか、そういうのじゃなくて、
うーん、簡単に言えば「切ない」という感情になると思うのですが。
心の琴線にこんなにもダイレクトに触れて起こるこの気持ちはなんなんだろう。

「生きるのが苦しかったあの時」を心の底に抱えている人の、
その、もう忘れてしまった古傷を直接撫でられているような気もします。
読んでて少し辛かったり切なかったり。

でもきっと、酸いも甘いも経験した皆さまなら、ぎゅーっと切なくなって、
そして、その後、少し、心が軽くなったような、気がするんじゃないかな。

「自分の作品の中で、いちばん好きです。」

とよしもとばななが言う、本のタイトルにもなった、
その「デットエンドの思い出」が大好きです。

ずーっと付き合って婚約もしていた彼が東京で浮気してて振られた、
という、ありがちといえばありがちな展開なのですが、
焦点は主人公が、心を立て直す過程に置かれています。

「よし、そろそろ帰って、やりなおそうか。」

と思えるようになるまでの心理描写を、
読んで感じて心が震えます。

「自分がとらえたいものが、その人の世界なんだ、きっと。」

そう、そうなんだよね。

この小説集に関しては泣かずにゲラを見ることができなかったのですが、その涙は心の奥底のつらさをちょっと消してくれた気がします。皆様にもそうでありますよう、祈ります。
– 作者あとがき-

櫻田にも、そう、でありました。
ばななさん、素敵な小説をありがとう!

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