ちょっと古いかしらん。3回くらい読んだ、ジャケ買い(多分)ヒット作です。
本屋さんでジャケ買いって、当たり外れが大きいけど、当たった時の興奮ったらないですよね。ネットでレビューを読んで買うのとは、全然違って。
その頃、ハチクロにはまっていたので、解説が羽海野チカさんだったから、というのも大きかったような、アジカンのジャケットと同じイラストレーター(中村祐介さん)だったから、というのもあったような。
#若干のネタバレも含みますが、読むに当たってそれ程問題ではない程度(櫻田調べ)です。
この世界観にハマれば最高!苦手なら読むのがツライかも
何せ匂いやホコリまで漂ってくるような世界観が濃い。夜の先斗町、下鴨神社の古本市、学園祭・・・その、時折読み飛ばしたくなりつつの緻密な情景描写に、想像の翼が全開。昭和な古さと、オカルトな極彩色と、ちょっとスモーク焚いてるみたいなファンタジーと、突如リアリティと。
そのクドい情景描写やら、時空をねじ曲げるような強引な展開、もはや何を言ってるんだか分からない妄想めいたセリフの数々、言葉遊びのための自問自答、戯曲のようなやりとりが、最高に面白い!
アニメ化された「有頂天家族」が有名かもしれません。
http://www.uchoten-anime.com/
櫻田は「ノイタミナ」枠の「四畳半神話大系」大好きでした。
Youtubeに転がっていたりもします。
https://youtu.be/gIl3av0lSGI
「考え過ぎの先輩(男)」の片想い恋愛小説です展開としては
その恋愛がストーリーの軸とはなっているけれど・・・
魅力1.
「先輩」の超絶片想いの「外堀を埋める」段階がメインで、ひとり勝手に悶々とする片想いのまどろっこしさを3乗したような、前に進まなさ。
どこまでも暴走する己のロマンチック・エンジンをとどめようがなく、やがて私はあまりの恥ずかしさに鼻から血を噴いた。
恥を知れ。しかるのち死ね。
しかし私は、もはや内なる礼節の声に耳を傾けはしない・・・・
とか、妄想だけで鼻血出しつつ、外堀を埋め続け(なるべく彼女の目に止まる作戦=ナカメ作戦するも、偶然ですねと言われ続けるだけ)、最後の方になっても、
だがしかし、あらゆるものを呑み込んで、たとえ行く手に待つのが失恋という奈落であっても、闇雲に跳躍すべき瞬間があるのではないか。今ここで跳ばなければ、未来永劫、薄暗い青春の片隅をくるくる周り続けるだけではないのか。諸君はそれで本望か。このまま彼女に想いを打ち明けることもなく、ひとりぼっちで明日死んでも悔いはないと言える者がいるか。もしいるならば一歩前へ!
と、自分の頭の中で自分に演説をぶって足踏みしている。さっさと告れーーっ!
最後の最後、彼女視点の「先輩」の描写が、結構いい感じに描かれていて、その心の激しき葛藤など透けてもいないギャップが、また微笑ましい。
森見さんの魅力は、考え過ぎのイケてない登場人物の長ったらしいセリフにこそあるんだと思います。声に出して読みたい日本語です。
魅力2.
それとは関係なく「乙女」の周囲で展開される恋愛とは全く関係のない破天荒なワンダーワールド。
彼女の視点と、彼の視点と、めまぐるしく変わり、環境設定が、可変式舞台装置のように変わります。割と強引に。万華鏡過ぎてついていくのに苦労するけれど、ついて行く必要さえないのかもしれない。そのトンチンカン(褒めてます)な世界で、理解したり把握することなく、ほほーんと漂っていれば、それだけで楽しい。
そのワンダーワールド自体が、鯉を背負っておともだちパンチする「乙女」の魅力であり。
で、その、彼女視点の描写と、彼視点の描写が、最後の方になると、少しずつ・・・・その視点が、物理的にも心理的にも、少しずつ近づいていく感じが、まあ素敵で、最後は激しくほっこりできます。
ピュアな二人と比べた己の心の汚れ具合を嘆き、面白過ぎる登場人物やワンダーな環境設定と比べた自分の住む世界のつまらなさ具合に嘆きつつ、壮大に森見ワールドに現実逃避をしようじゃないか!
何も考えず没頭でき、読了感は爽やか。最高です。
考え過ぎ男子小説と言えば
主人公の男の子の、考え過ぎっぷりで、ふと読み返したくなった本が。
「恋愛に関する考察」をし過ぎる頭でっかち男子ヨーロッパ代表。こちらは、哲学やら心理学やらで相手や状況を分析し過ぎる、不器用で素朴で経験値足りない男性。そう、ふたりとも経験値が足りない感じがいいのよっ!
2手、3手、先を(しかも外れてる)読んだり、あらゆる心配事をふくらまして哲学的に憂慮し、結局何も言えない、うまくいかない、みたいな、無駄な頭の良さとか知識の無駄な使い方に思わずクスッとしてしまう感じ。
とりあえず気になられたら、本屋さんで羽海野チカさんのイラスト解説だけでも見て下さい。